2013.3.16 第3回「学校・地域連携の最前線」

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2013年3月16日、東京大学医学部1号館を会場に、学校づくりゼミ第3回が開催されました。今回のテーマは「学校・地域連携の最前線」。学校と地域が連携することで、どんな実践が生まれるのか、そしてそこにどんな課題があるのか。今回は新宿区立四谷中学校校長の吉田和夫先生、板橋区立成増小学校学校支援地域本部コーディネーターの白鳥円啓さんをお迎えし、お話を伺いました。
まず、四谷中学校の吉田校長先生から、四谷中学校における学校・地域連携の取り組みについてお話をいただきました。

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四谷中学校は、「地域協働学校(※1)」として、学校と地域が連携した教育活動を行っています。校長の吉田先生は、「対話・協働・変革」を学校経営のスローガンに掲げながら、学校と地域の連携に取り組んでいます。吉田先生は、「生徒の変容、成長、向上のためには、保護者や地域・関係諸機関との協働や、教師のチーム力の向上が欠かせない。」と強調しました。
協働の鍵となる組織が、学校運営協議会です。四谷中学校の学校運営協議会は、教師、地域住民、保護者の代表、教育学の専門家によって構成され、毎月1回会議を開いています。この会議では、「キャリア教育」、「生活指導」、「学習指導」という3つのプロジェクトが検討されています。保護者や地域住民が学校運営に参画し、より多くの視点から生徒を育てるのが狙いです。
吉田先生は「ライフマネジメント力」の育成に力を入れています。ライフマネジメント力とは、生徒が自らの人生、自らの生活や学習を、自ら高め、自ら経営していく力のことです。ライフマネジメント力を高めるため、四谷中学校では、地域を巻き込んだ職場体験学習を行っています。四谷中では、「四谷の子供の職場体験は四谷の町で」を掲げ、四谷地域の事業所で職場体験を行っています。
(※1 地域協働学校・・・新宿区版の「コミュニティ・スクール」。「コミュニティ・スクール」に関しては、※3を参照。)

次に、成増小学校学校支援地域本部 地域コーディネーターの白鳥さんから、成増小学校における学校・地域連携の取り組みについてお話をいただきました。

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成増小学校には「学校支援地域本部」(※3)が設置され、地域全体で学校教育を支援する体制づくりがなされています。白鳥さんは地域コーディネーターとして、学校と地域・保護者をつなぐパイプ役を担っています。白鳥さんは、「色々な要請があると、学校がパンクしてしまう。コーディネーターが交通整理を行うのが大切」と、コーディネーターの意義について指摘しました。

成増小学校学校支援地域本部では、企業やNPOとも連携しながら、様々なプログラムを行っています。そのプログラムは、レインボー図書館(放課後の図書館解放)、赤ペン教室(漢字検定などの学習会)、キャリア教育支援、授業支援、教員研修、ICTによる給食食材産地情報の提供、地域のお祭りへの参加、など多岐にわたります。白鳥さんは、「教育をプロに任せたい、一方で、プロじゃなくてもできる仕事がある。そこを地域の人たちが代わりにやっていく」と強調。一方で、「先生方も『漢字検定は地域の方に任せる。僕たちはプロとして読解力や文章力を伸ばしていけるよう頑張りたい。』という意識になっており、うまく分業できているのかな」と指摘しました。

(※2 学校支援地域本部 平成20年度から始まった取り組み。学校支援地域本部は主に地域住民によって構成され、地域の教育力を学校の教育活動につなげている。平成22年度の文部科学省の調査では、全国に2540の本部が置かれている。)

次に、学校づくりゼミのメンバー、町支が司会を務め、吉田先生、白鳥さんを交えてパネルディスカッションが行われました。

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―まずは、学校と地域の関係づくりについて伺いたいと思います。白鳥さんは成増小学校のPTA会長の時に支援本部を立ち上げたと聞いています。そのきっかけは何だったのでしょうか?

(白鳥 以下敬称略)最初は校長先生からですね。「こういうおもしろそうなものがあるんだけど、一緒にやらない?」と言われました。上から言われて、という形ではありませんでした。

―学校と地域がつながるためには、両者を媒介してくださる方に出会えるかどうかが鍵だと思います。吉田先生は、どうやってそういう方と出会ったのですか。

(吉田 以下敬称略)私は、人との交流の中で自分自身が生きている、と思っていて、直感的にうまくいく人だ、と分かるんですね。もちろん失敗もあるんですが。運営協議会をリセットする必要があった時もあります。最初仲が悪かった人とかえって仲良くなったり。
教員になぜなったかというと、人が好きだったからというのがあります。ただ、僕は人を制度や枠組みでしばるのはよくないと思っていて、自由にワクワクする挑戦や体験を先生たちにも求めています。

地域や外部の人々を入れていくことで難しいのが、各教科の授業。総合的な学習の時間や放課後学習など、教科外は入りやすいですけど、教科の授業にはなかなか入れない。しかし、これは白鳥さんがおっしゃったように、やれば確実に効果が上がるんですね。うちの中学校の食育をやっている教員は、地域や外部の人をたくさん招いているんですね。四谷中学校の近くの高級レストランのシェフを呼んで授業をしたり、築地魚河岸の魚屋さんをゲストに招いたり、全部自分で関係を作ってやっている。やっぱり人なんですよね。その先生がどんな人なのかというところが最大の条件なんです。

―白鳥さんのところでは授業に入られていますが。

(白鳥)小学校という優位性はあるでしょう。中学校の場合、先生は数学なら数学の先生、のように教科を持っている。専門になってしまうと、なかなか受け入れないという体質があるようで、色々な学校でお話をすると、みなさん同じ悩みを持たれているところが多かったので、そう思います。そこをどうほぐしていくかというと、少しずつ切り崩していくのが一番いいのでしょう。小学校の場合は1人の先生が全教科をやるので、色々な方が入った多様な授業をやると逆に気が楽になる。小学校と中学校は少し違ってくるんですね。中学校は企業やエキスパートが入っていくと先生としてはやりやすい可能性がある。逆に素人さんが入っていくと、難しいのかなと思います。

―鍵になるのはコーディネーターですか。

(白鳥)コーディネーターが入ることによって楽になるのは確かでしょうね。学校にいると色々なところから色々言われるんですよ。町会長さんもいれば商店街もあって、別々な話をしているんですね。そういうところを交通整理すると楽ですし、学校のことを分かっている人が聞くと楽で、そのあとがスムーズになる。

(吉田)おっしゃる通り、小学校と中学校は制度上でも違いますし、文化も違います。小学校は全教科を1人の先生がやるので、外部の人を呼ぶなら自分の裁量で決められる。中学校の場合には、例えば授業が習熟度別になっていて、2クラスが3分割されていることもある。そうすると3人の先生が入って調整する。また、教科の指導が系統的になっている。履修内容を細かに決めている学習指導要領もあるので、やっていないのにやったことにして済ますわけにはいきません。中学は学区も広く、地域の組織もたくさん入り組んでいるので調整も大変です。小学校のほうがその点、遥かに連携や協働がやりやすいのです。
ただ、僕が思うには、中学校でもキャリア教育、職場体験は一番入りやすいんですね。それから、部活動コーチや放課後の学習支援はやりやすい。それで、教科の中に入るためには教科の教員が必要を感じなければいけない。例えば指導要領が変わってダンスや武道が必修になった。それで、外部の方を講師に招いてダンスを教えたのですが、その講師とすっかり意気投合してしまい、そのうちに、校歌に合わせてダンスを踊ることになった。(笑)このように、今までないようなことができるようになる。先生方の機能も、周囲と連携・協働してできるような、コーディネート力が必要になり、そのようなことができる教師になっていく可能性がある。他の人と一緒に授業をすることが今後大切だと思います。

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―さて、次のテーマに行きまして、これまで学校と地域の関係づくりについて伺ってきたのですが、2年目・3年目になるとまた新たな展開がある。そこをお聞かせください。

(白鳥)まず関係づくりの中では、2年、3年経つと、「いて当然」という状況になっている。4月1日に新任の方が来ると、「ああ、白鳥さんなのですね。」と。私が当然学校にいるような感じになっている(笑)
学校の問題ではなく、行政の問題だとか、そういうところでは大きい問題はあるのかな。校長が変わることは大きな問題です。校長先生が変わった場合、とても先進的にやっていた学校が2年後に何もできなくなった。「そんなのやらなくていいよ」と言われちゃって。やはり、校長先生の考え方は大きい。コミュニティスクール(※3)のような形になっていれば、地域がこういう教育をしてほしい、という流れの中で、校長先生の考え方を足して、考えられる土壌ができていればいいのかな。成増はそうなりつつある。先生の経営方針については来た時には毎日1週間くらい、朝1時間くらいお茶を飲みながら話して、お互いに意見を交換しながら本音で関係づくりを行っています。
行政については、予算があるかどうかが大きい。学校支援地域本部事業を3年間やって、予算が無いからやめちゃった、というところもある。もったいないです。持続可能なことが一番大変なのかな、と思います。持続可能にするにはどうするか、を常日頃考えなければならない。

(※3 コミュニティ・スクール 平成16年度に始まった取り組み。地域住民の代表を含む学校運営協議会が学校運営に参画する。教育方針の承認や教員人事に対して意見を言えるなど、一定の権限を持つ。現在、全国の小中学校のうち5パーセント前後の学校に設置されている)

―どこまでどうやって入っていくかについても聞かせてください。

(白鳥)さっきから同じことを言うんですけど、僕はプロじゃない。プロじゃないということをわきまえて何を喋るかなんですね。目的は先生方と一緒で、子供たちのために何ができるか、ということ。
入ってくる方のコミュニケーション能力もちゃんと見ていかなければならないのかな。コーディネーターの資質について東京都の部会で話しているんですけど、そのなかで、例えばアサーティブ・コミュニケーションのような、いろんな言葉があるんですね。そういうコミュニケーションの手法を知らないといけないのかな。

(吉田)地域と学校との関係の違いはかなり大きいものがあると思うんです。地域はDNAのようなものを持っていると思います。八王子には八王子のDNA、四谷なら四谷のDNAがある。子どもたちもそのDNAを結構受け継いでいくんですよ。コミュニティ・スクールにして、地域の方と話す機会が多くなれば多くなるほど、そのDNAを受け継いでいく。私たちは専門家なので、ある意味では横の糸。数年しかいられないんですね。地域の人たちは縦の糸だから、ずっといるんですね。縦の糸と横の糸が織りなすのが、僕は学校だと思っています。

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―ありがとうございます。それでは、最後に一言お願いします。
(吉田)教員は専門的職能集団だと思っています。つまり、職人です。校長や副校長など上に立つのはいわば現場監督。職人を動かすのは職人の経験がある人じゃないと無理です。和田中の藤原先生も外回りはやって、地域支援本部は作ったけれども、教員には一切ノータッチです。教科の授業の中身は一切教員に任せている。これは「餅は餅屋」なんですよ。

(白鳥)専門家じゃない人も専門家と話す時にはある程度知識が必要なんですよ。自分は、指導要領も記憶しています。何年生にどんな授業があるかも知っています。だから、「こういうのがある」と聞くと、「3年生のあの授業でも使えそう。」ということを考える。そういうような養成をしていく必要がある。先生と話す共通言語が大切ですよね。

―どうもありがとうございました。これでパネルディスカッションを終わります。

休憩ののち、5つのグループに分かれてグループディスカッションが行われました。議論にはゲストのお二方も加わり、活発な議論が行われました。

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グループディスカッションの後、各グループの代表者が各グループでの議論のまとめを発表し、さらに疑問点をお2人のゲストに質問しました。

―うまくいかなかったケースを教えてほしい。
(吉田)成功例の裏には失敗例があります。以前、運営協議会メンバーの選定で失敗してしまったことがありました。人材、人的な関係の見極めが大切。あとはスクールコーディネーターですね、スクールコーディネーターも、優秀なコーディネーターの後のコーディネーターが大変なんですよ。白鳥さんの後がだれになるか、という話もそうだけど。(笑) だから最近は、スクールコーディネーターが1人では駄目なんだろうな、それは無理だなと思っています。多分、そういう時代になったんだろうなと思います。

(白鳥)子どもたちに関することに関しては失敗したことがない。慎重になります。よく失敗するのは、シンポジウムやろうよ、と言ったら3人しかこなかった。(笑) それから、安全マップの勉強会に8人くらいくるかな、と思ったら2人しかこなかった、とかね。(笑)

―コーディネーターの位置づけについて教えてほしい。コーディネーターはプロフェッショナルとしてやっているのか。それとも地域の方々が仕事の傍らやっているのか。また、報酬についても教えてほしい。

(白鳥)板橋区でいうと、板橋区教育委員会から委嘱されている。謝金も区でいろいろ。無料、というところもあります。なので、基本は地域のおじさん、おばさん。都の場合ではある程度資質をイメージしている。グループマネジメントができる人、交渉がうまい人、運用がうまい人等が地域にいらっしゃる。そういう人がグループ体制で行うことが東京都ではイメージされている。

(吉田)スクールコーディネーターは職としてはあるけれども職業ではないわけですから、難しい。必ずしも専門性を期待しているわけでもない。その人たちがうんと出来てしまうと、周りがついてこられないということもあります。私が考えているのは、運営協議会全体がコーディネーターの機能を持っているということ。職場体験なら、それぞれプロジェクトの人がやる。放課後学習は保護者の方がやる、というように、コーディネーターを分化してやっています。

―私は現職の高校教員なのですが、高校のスケールで考えた場合、コミュニティ・スクールはどんなアイデアがあるのか、教えていただきたい。
(吉田)多分地域ということでなくて、外部というところで考えると、企業のCSRみたいなものが、直接高校に入ってくるんじゃないでしょうか。地域の替わりにたとえば企業とか、篤志家のような方が入ってくるのではないか。企業がらみの地域共同体、例えば豊田市なんてそうですよね。

(白鳥)東京都は都立高校についてもやっている。キャリア教育っていうのが大きいですよね。キャリア教育が重要な立ち位置を占めている。キャリア教育というところで外部を取り入れていくことが大切。経済同友会とか、よくやらせていただいていますけども、リーガルパーク、法律のところとか、そういうところと組んでいく。あるいはJICAとかそういうところと組んで、より専門的なものを取り入れていくとやりやすいのかな、と思います。

<参加者の感想>

学校側と地域側の二つの視点から、地域教育の内容や経営について知ることができました。教師にこれからなる身としては、教師に求められるキャリア教育の質の高さを強く感じるとともに、それを補うための取組みの工夫の必要性が分かりました。現在、学校・地域・家庭の連携が重要視される中で、おたがいの関係性を良好に保ちながら、子供達が伸び伸びと成長できる環境を作っていきたいと思います。

地域や外部の人を学校教育の場で如何に活用でき、成功させるかが校長先生やPTA会長など個人の資質に大きく左右されるというお話が興味深かったです。また地域や外部の人にでもできる仕事をやってもらう事で、教員が教育により専念できるという考え方がとても新鮮で印象に残りました。

地域と学校の連携の話は本で読む程度であったので、すごくためになりました。現実に起こるだろう人間関係のいざこざなどは理論など机上だけではわかりません。理論と実践をつなぐ機会を設けるという事は、学校や行政、研究者にはすごく大切です。

講師プロフィール

◇吉田和夫先生(新宿区立四谷中学校校長)
千葉県や東京都の教員、品川区及び東京都教職員研修センターの指導主事、杉並区立大宮中学校副校長、八王子市立城山中学校長などを経て、2010年度より現職。2006年頃から学校と地域との連携に取り組んできた同校でさらなる連携強化に取り組み、本年1月には、同校の活動についての研究発表も行った。その他にも、教職員を元気にする本の出版など、活動は多岐に渡る。学校・地域・NPO・企業などを結ぶ「教育ナイト」も企画し、学校のプラットフォーム化に努める。最近、退職記念(?)に本を出版。

○参考URL
新宿区立四谷中学校 http://www.shinjuku.ed.jp/jh-yotsuya/index.html
四谷中学応援団 http://www3.hp-ez.com/hp/y-ouendan
最近の著作 http://www.toyokan.co.jp/book/b107891.html

◇白鳥円啓さん(板橋区立成増小学校 学校支援地域本部コーディネーター)
板橋区立成増小学校のPTA会長として、学校支援地域本部の立ち上げに携わり、その後も地域コーディネーターとして学校と地域の連携に継続的に関わっている。これまでには子供たちに対する学習支援や、教員向けの研修、授業支援など、様々な角度から学校をサポートしてきた。また、東京都全体の地域コーディネーターの育成などにも携わっている。

○参考URL
成増小学校支援地域本部 http://www.narimasu.gr.jp/

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